事件No.10
出願番号:CN201710733227.0
発明の名称:コンタクトホールにおけるプラグ酸化物の窪みを改善するプロセス方法
復審請求人:長江記憶科技有限責任公司
復審决定番号:185132
復審决定日:2019-07-02
一つの請求項が保護請求している技術案が、最も近い従来技術である引例と比較し、
①相違点があり、
②この相違点が他の引例に開示されておらず、属する技術分野において課題を解決するために一般的に採用されている技術的手段ではなく、
③当業者に、この相違点を最も近い従来技術に適用する動機がなく、
④この相違点を採用することにより、請求項が保護請求している技術案に有益な技術的効果を与えることができる場合、
当該請求項は進歩性を有する。
【案件の背景及び概要】
ビッグデータの需要を受け、メモリチップは既に電子情報分野で巨大な市場シェアを占める集積回路製品となっている。3DNADは革新的な半導体記憶技術として、記憶技術の発展余地を広げたが、その構造の高い複雑性が製造プロセスに新たな挑戦をもたらした。その製造過程において、プロセスのステップは最終的な効果に著しい影響を与えるため、プロセスの欠陥により最終的な製品性能に瑕疵がもたらされるという、プロセスに関する技術課題の発見が特に重要である。本件の審理では、進歩性の審査において当業者の改良の動機が「技術的示唆の有無の判断」にどのような影響を与えるか、が焦点となった。
本発明は半導体チップ分野、特に3DNADメモリ製造の関連技術に関し、その発明名称はコンタクトホールにおけるプラグ酸化物の窪みを改善するプロセス方法であり、出願日は2017年08月24日であり、公開日は2018年02月23日である。
実体審査を経て、国家知識産権局実体審査部門は2019年02月02日に拒絶査定を発行し、請求項1~7が特許法第22条第3項の規定に適合しないという理由で本願を却下した。
拒絶査定の対象とされた請求項1は、以下の通りである。
【請求項1】
コンタクトホールにおけるプラグ酸化物の窪みを改善するプロセス方法であって、
具体的には、まず、層間媒体層及び隣接する層間媒体層の間に形成される犠牲媒体層が表面にインターリーブ積層され形成された基板を提供し、そして1)化学機械研磨プロセスを用いて最上層層間媒体層の滑らかで平らな表面を得るステップである、基板表面に多層の積層構造を形成するステップと、
具体的には、まず、化学機械研磨阻止層の表面に複合リソグラフィー層を形成し、次に選択ゲートカット線を形成する必要がある位置でリソグラフィーを実施するステップである、最上層選択ゲートカット線(top select gate cut)を形成するようにリソグラフィーを行うステップと、
具体的には、通常なエッチングプロセスにより前記リソグラフィを行った位置に最上層選択ゲートカット線のチャンネルを形成し、前記化学機械研磨阻止層の表面を露出するように前記複合リソグラフィー層を除去するステップである、最上層選択ゲートカット線を形成するようにエッチングを行うステップと、
具体的には、前記チャネル内に最上層選択ゲートカット線の酸化物材料を堆積し充填するステップである、最上層選択ゲートカット線を充填するステップと、
具体的には、化学機械研磨阻止層を露出させ滑らかで平らな表面を形成するように、化学機械研磨プロセスを採用して、最上層選択ゲートカット線のチャネルを充填する時の前記化学機械研磨阻止層の表面に形成される不要な最上層選択ゲートカット線の酸化物材料を除去するステップである、不要な最上層選択ゲートカットの酸化物材料を除去するステップと、
前記化学機械研磨阻止層を除去するステップと、
具体的には、滑らかで平らな表面を得るように、化学機械研磨プロセスを採用して、最上層選択ゲートカットの酸化物材料が最上層層間媒体層の表面と揃っているまでに、化学機械研磨阻止層を除去した後の不要な突出した最上層選択ゲートカット線の酸化物材料を除去するステップである、不要な最上層選択ゲートカット線の酸化物材料を除去するステップと、を含む
2)滑らかで平らな表面に一層の化学機械研磨阻止層を堆積するステップと、
3)具体的には、最上層層間媒体層と最上層選択ゲートカット線の酸化物材料の表面にプラグ酸化物を堆積し、プラグ酸化物の表面に窒化シリコン層を形成するステップである、プラグ酸化物を堆積するステップと、を含む
ことを特徴とするプロセス方法。
拒絶査定では、以下の引例が引用された。
引例1:US 2015/0200203A1、公開日:2015年07月16日
引例2:CN 1068403A、公開日:2017年5月17日
拒絶査定の認定:請求項1と引例1との相違点は、請求項1における1)、2)、3)に示される技術的特徴にあり、前記の技術的特徴1)と3)は、本分野の公知常識であり、前記の技術的特徴2)は、引例2から得られる技術的示唆に基づき本分野の通常の技術的手段を組み合わせて容易に想到できるものである。よって、請求項1は、引例1と引例2と公知常識との組み合わせに対して進歩性を有していない。
●前記の拒絶査定に対し、復審請求人である長江記憶科技有限責任公司が復審請求書を提出した。その後、国家知識産権局は、合議体を結成して本件を審理し、拒絶査定を取り消す復審決定をした。
●合議体の主な観点と理由:
請求項1と引例1との相違点は、上記技術的特徴1)、2)、3)にある。上記の相違点に基づいて、請求項1が解決しようとする課題は、エッチング速度の違いによるプラグ酸化物の窪みを回避し、さらに縦断面でのコンタクトホールの湾曲を回避する、ということである。
引例1は、本願の「エッチング速度の違いによるプラグ酸化物の窪みを回避し、さらに縦断面でのコンタクトホールの湾曲を改善する」という課題に係っていない。引例2は、浅い溝の隔離構造の作製方法に係り、引例2には、基板表面に研磨停止層202が形成されているが、この研磨停止層202が引例2において起こす作用は、その後の平坦化プロセスにおいて、この研磨停止層の表面に形成された研磨バッファ層及び浅い溝内の絶縁材料とともに、研磨速度の異なりによって浅い溝の隔離構造の表面形状の補償効果を実現することで、平坦化プロセスが完了した後の浅い溝内の絶縁材料の平坦度を良くする、ということである。してみると、引例2に開示されている研磨停止層、研磨バッファ層、絶縁材料の設置及びこれに合わせられる研磨プロセスの根本的な目的は、平坦化した後の浅い溝内の絶縁材料の平坦度を改善することである。本願の請求項1に記載の「化学機械研磨阻止層を堆積する」という構成要件の根本的な目的は、エッチング速度の異なりによるプラグ酸化物の窪みを回避し、さらに、縦断面でのコンタクトホールの湾曲を改善することである。してみると、引例2において研磨停止層を設ける目的と請求項1において化学機械研磨阻止層を設ける目的は異なる。引例2には、本願の「エッチング速度の違いによるプラグ酸化物のくぼみを回避し、さらにコンタクトホールの縦断面での湾曲状の状況を改善する」という課題がなく、上記の課題を解決するために相応の技術的手段を使用する示唆も与えられていない。最後に、上記の相違点は、本願における「エッチング速度の違いによるプラグ酸化物の窪みを回避し、さらにコンタクトホールの縦断面での湾曲状の状況を改善する」という課題を解決するための一般的な技術的手段ではないので、本分野の公知常識ではなく、また、本発明では、前記の相違点を採用することにより、「エッチング速度の違いによるプラグ酸化物のくぼみを回避し,さらにコンタクトホールの縦断面での湾曲状の状況を改善する」という有益な技術的効果を得られている。
してみると、請求項1は、拒絶査定において引用された引例1、引例2及び本分野の公知常識に対して、突出した実質的特徴と顕著な進歩を有するので、進歩性を有する。
【案件からの教示及び典型的意味】
進歩性の審査過程では、従来技術に基づいて改良の動機があるかどうかを判断しなければならず、そうでなければ、「後知恵」形式の判断ミスを犯すことになる。従来技術に開示された技術的手段が従来技術において起こす作用が、相違点が本発明の課題を解決する過程において起こす作用と全く異なる場合、従来技術から、相違点を最も近い従来技術に適用する示唆を得ることは困難である。