事件No.9
中国実用新案登録番号:ZL201621037804.X
出願日:2016年9月2日
登録日:2017年3月15日
実用新案名称:押圧音を発生させるキーボードスイッチ
実用新案権者:東莞市凱華電子有限公司
無効審判請求人:同方国際情報技術(蘇州)有限公司;伍冬梅
無効審判請求日:2019年1月9日;2019年2月20日
無効審査決定番号:第40870号(実用新案権を全て有効に維持する)
無効審査決定日:2019年6月26日
【要点】
請求項の技術案は、最も近い引用文献に対する相違点を有し、この相違点が他の引用文献に開示されておらず、本分野の技術常識であることを示す証拠もなく、かつ請求項の技術案が有益な技術的効果を得ることができる場合、当該請求項は進歩性を有する。
【無効審判の経緯】
1、対象実用新案の紹介
¨対象実用新案が解決しようとする技術的課題
(1)薄型メカニカルキーボードは押圧手触りが乏しく、ユーザ体験が良くない。
(2)薄型メカニカルキーボードは通常のメカニカルキーボードのように押圧時に音を発生できず、ユーザ体験が良くない。
¨対象実用新案の請求の範囲
【請求項1】
ベース(1)とカバー(2)とを備え、該カバー(2)がベース(1)に被せられて収容キャビティを形成し、該収容キャビティ内に押圧部材(3)とスプリング(4)と導通部材(5)とが設けられ、該スプリング(4)が押圧部材の底部とベース(1)との間に位置され、かつ該押圧部材(3)の上端がカバー(2)の上端に位置する、押圧音を発生可能なキーボードスイッチにおいて、
前記押圧部材(3)に押圧ブロック(31)が設けられ、前記ベースにガイド斜面(11)と弾性部材(6)とがそれぞれ設けられ、該弾性部材(6)の一端部(62’)が押圧ブロック(31)の直下かつガイド斜面(11)の直上に位置し、該押圧ブロック(31)がガイド斜面(11)の側辺に位置することを特徴とするキーボードスイッチ。
¨対象実用新案に関するキーボードスイッチの押圧時の動作
非押圧状態では、ねじりばね6’の第1端部62’が押圧ブロック31の下面に当接している。押圧ブロック31を押圧する際に、押圧ブロック31がねじりばね6’の第1端部62’を下向きに移動するように押圧し、一定位置に移動した後、第1端部62’がガイド斜面11に沿って押圧ブロック31の下方から抜け出し、跳ね返してベース1の上にあるストッパ部16に叩き、音が発生する。
¨対象実用新案の技術的効果
薄型メカニカルキーボードに良好な押圧手触りを持たせることができ、押圧時に音フィードバックを発生させることができ、ユーザ体験を向上させることができる。
2、無効審判請求人の主な主張
請求項1は、証拠1と公知常識との組み合わせ、又は、証拠1と証拠2との組み合わせに対して特許法第22条第3項に規定する進歩性を有しない。
証拠1:WO2016/107545A1 公開日:2016年7月7日
証拠2:CN104882316A 公開日:2015年9月2日
3、証拠1に関する合議体の認定
¨証拠1に関するキーボードスイッチの押圧時の動作
非押圧状態では、ねじりばね6’の折曲部61’はガイド斜面521’の下方に位置している。押圧部材5を押圧する際に、ガイド斜面521’が折曲部61’を圧迫して一定位置まで押し下げられた後、折曲部61’がガイド斜面521’に沿って抜け出し、跳ね返して上蓋1の下方を叩き、音を発生させて聴覚的効果を増す。
¨無効審判請求人の主張
対象実用新案のガイド斜面11と証拠1のガイド斜面521 ’とは、設置位置が異なっているが、本分野の技術常識に属する。
¨合議体の認定
対象実用新案と証拠1との相違点は、ガイド斜面の設置位置だけでなく、ガイド斜面、弾性部材及び押圧ブロックの部材間の連携関係にも存在し、このような相違点が本分野の技術常識に属することを証明する証拠もない。
4、証拠2に関する合議体の認定
¨無効審判請求人の主張
証拠2は、弾性部材がベース等の他の位置を叩き、ガイド斜面の位置を調整するという示唆を与えている。
¨合議体の認定
証拠2の明細書には「弾性部材の叩き位置が上カバーの他にベース等に変形する」ことは開示されているが、証拠2の技術案はいずれも弾性部材で上蓋を叩くことを例としており、弾性部材がベース等の部位を叩く時のガイド斜面や他の部材の設置方式を開示しておらず、ガイド斜面をベースに設置して押圧ブロックと起こす連携作用について技術的示唆がない。
5、合議体の結論
請求項1は、証拠1と公知常識との組み合わせ、又は証拠2と公知常識との組み合わせ、又は証拠1と証拠2との組み合わせに対して特許法第22条第3項に規定する進歩性を有する。
【案件からの教示及び典型的意味】
¨技術的手段の全体的考慮
個々の技術的特徴は単独でばらばらの要素であるが、簡単な部材を組み合わせて連携関係を有する技術的手段が形成された場合には、その技術的手段を全体的に考慮して判断する必要がある。内在的関連性のある技術的特徴を不当にばらばらの要素に解きほぐして理解することは適切ではない。
¨技術的示唆の有無の判断
証拠には想定や効果が記載されているが具体的な実施手段の内容が記載されていない場合、技術的示唆が得られるか否かについては、当業者が予期できるものに合う判断を行うべきである。