事件No.8
中国特許登録番号:ZL201310556488.1
出願日:2013年11月11日
登録日:2015年4月29日
特許名称:旋回流乾式粉炭ガス化炉
特許権者:神華集団有限責任公司、神華寧夏煤業集団有限責任公司
無効審判請求人:王翀
無効審判請求日:2018年11月10日
無効審査決定番号:第39289号(特許権の有効を維持する)
無効審査決定日:2019年3月4日
【無効審査決定の要点】
請求項が、最も近い従来技術に比して相違点を有するが、従来技術により、該相違点を該最も近い従来技術に用いて相応の技術課題を解決する技術示唆が与えられておらず、それが本分野の公知常識に属していることを証明する証拠もない場合、該請求項は、突出した実質的な特徴を有している。
【事件の背景及び経緯の簡単な説明】
本特許は、業界で大きな注目を集めている高転化率の乾式粉炭ガス化技術に関するものである。石炭のクリーンで高効率な利用は、今日の世界のエネルギー及び環境保護分野における重要な技術的課題であり、大規模で高効率な石炭ガス化技術は、クリーンな石炭転換の重要な技術として業界で公認されている。本特許の前には、大規模な乾式粉炭ガス化のコア技術のほとんどが外国によって独占されていた。中国国内では、宇宙炉が代表的なものであるが、その処理規模は2000トン/日に達することができず、炭素変換率が低かった。本特許は、2000~3000トン/日の処理規模で大規模な乾式粉炭ガス化を実現でき、炭素変換率を向上でき、工業的規模を考慮し、炭素変換率の向上量の絶対値が大きい旋回流乾式粉炭ガス化炉を提供している。
本特許の請求項1は以下の通りである。
「旋回流粉炭バーナーと、反応室と、スラグ排出口と、急冷室と、外筐と、保護環と、を含み、
前記旋回流粉炭バーナーが前記反応室の上部に設けられ、前記反応室の下部が前記スラグ排出口の上部と連通されており、前記急冷室には、急冷環と、下降管と、気泡破壊板と、が含まれており、前記気泡破壊板が前記下降管と前記外筐との間に設けられ、前記急冷環が前記下降管の上端に設けられ、前記反応室及び前記スラグ排出口の外部には冷却水コイル管が設けられており、
前記スラグ排出口の下端と前記下降管の上端は、それぞれ前記保護環の上端と下端と連通されており、
前記旋回流粉炭バーナーは、内から外へ順に点火通路と、第1冷却循環水通路と、酸素ガス・蒸気通路と、粉炭通路と、第2冷却循環水通路と、を含み、前記第1冷却循環水通路と前記第2冷却循環水通路とは、それぞれ火に面した端でらせん状に巻回されており、前記酸素・蒸気通路内には旋回羽根が設けられており、前記旋回羽根は、前記旋回流粉炭バーナーの縦軸と20~30°の角度をなし、
前記スラグ排出口の直径と前記反応室の直径の比率が1:3~1:4であり、
前記外筐と前記スラグ排出口との間に、支持板が設けられており、前記下降管の下部が、固定レバー及び前記旋回流乾式粉炭ガス化炉の外筐により固定されていることを特徴とする旋回流乾式粉炭ガス化炉。」
¨無効審判請求の主な理由:
請求項1~9は進歩性を有せず、そのうち、請求項1の進歩性に関する評価は、何れも引用文献1を最も近い従来技術としており、その他の引用文献についての具体的な引用方式は、引用文献2、3、4、5がスラグ排出口と反応室との直径比率に関する特徴の評価に用いられ、引用文献4~11が支持板及び固定レバーに関する特徴の評価に用いられ、引用文献12、13が急冷管に関する特徴の評価に用いられ、引用文献14~22がノズルの具体的な構造に関する特徴の評価に用いられ、引用文献26、27、28、29が保護環に関する特徴の評価に用いられるようになっている。
引用文献1:登録公告日が2013年4月10日であって、登録公告番号がCN202865188Uである中国実用新案明細書;
引用文献2:公開日が2009年6月17日であって、公開番号がCN101457160Aである中国発明特許出願公開明細書;
引用文献3:公開日が2006年11月29日であって、公開番号がCN1869166Aである中国発明特許出願公開明細書;
引用文献4:「石炭水スラリーガス化炉の製造」、『製造と装着』第22巻第4期(総第149期)、第26~30頁;
引用文献5:「内壁肉盛溶接式ガス化炉の製造技術研究」、『ボイラ製造』2010年7月第4期(総第222期)、第44~46頁;
引用文献26:登録公告日が2013年7月17日であって、登録公告番号がCN203060992Uである中国実用新案明細書;
引用文献27:出願公開日が2013年2月27日であって、出願公開番号がCN102946989Aである中国特許出願公開明細書;
引用文献28:「テキサコ重油ガス化炉における急冷環の応用と改善策」、『化工設備設計』1996年第33巻第3期、第31~33頁;
引用文献29:「テキサコ重油ガス化炉の応用と改善」、『化工設計』1994年第6期、第21~27頁;
¨合議体の主な意見及び理由:
請求項1と引用文献1との間には、少なくとも以下の相違点が存在している。即ち、(1)請求項1には、スラグ排出口の直径と反応室の直径との比率が1:3~1:4であることが限定されていること;(2)請求項1には、保護環がさらに設けられており、スラグ排出口の下端と下降管の上端は、それぞれ保護環の上端と下端と連通されていること。
前記相違点(1)について、
まず、本特許明細書段落0024の記載によれば、本特許は、スラグ排出口及び反応室の直径の適切な比率を調整することにより、炭素変換率をさらに向上させるものである。反応室内の粉炭の滞留時間を延長することによって炭素変換率を向上可能であることは本分野で知られているが、滞留時間の延長を実現する具体的な方式は数多くあり、従来技術では、通常、反応室の構造やアスペクト比率を変更するような方式が用いられており、例えば、引用文献1では、その反応室が「上が大きく下が小さい」という特定の形状を呈していると限定されており、引用文献2では、その反応器の高さ及び直径が特定の比率を満たしていると限定されている。
次に、引用文献2は、引用文献1と供給方式やスラグ排出形式の面で明らかに異なっており、且つ、引用文献2は反応器の内径とスラグ排出口との直径比率の設置目的も本特許と異なっており、引用文献2が本特許に限定されている比率を開示していたとしても、それに基づいて、当業者は、引用文献2を引用文献1と組み合わせることに想到することができない。また、引用文献3には、「ガス化室のスラグ排出口の直径0.5D」が開示されており、すなわち、スラグ排出口と反応室との直径の比率は1:2であって、本特許に限定されているスラグ排出口と反応室との直径の比率の範囲外にあり、且つそのガス化炉も同様に固体スラグ排出の形態を用いており、それに、引用文献4と引用文献5の図面の何れにおいても、そのスラグ排出口の直径の具体的なサイズが開示されていないため、本特許に限定されている、スラグ排出口と反応室との直径の比率の範囲も開示されていない。
さらに、本特許の明細書に記載の如く、本分野では、乾式粉炭ガス化炉のスラグ排出口と反応室との直径の比率は通常1:2~1:2.5であり、無効審判請求人からは、その比率がさらに1:3~1:4に調整されることが本分野の公知常識に属していることを証明する何らの証拠も提出されておらず、且つ、口頭審理の際にも、無効審判請求人は上述の比率調整には更なる設計及び試験が必要であることを認めたが、該比率調整の影響要因や各要因の役割の規則性を明確に説明することができなかった。以上のことを踏まえて、合議体は、「既存の証拠では、当業者には引用文献におけるスラグ排出口と反応室との直径の比率を本特許の比率に調整する動機付けがあることを証明するには不十分である。してみると、引用文献2、引用文献3、引用文献4及び公知常識の何れにおいても、炭素変換率を向上させるために、本特許に特定のスラグ排出口と反応室との直径比率を用いる技術示唆が与えられていない。」と認める。
前記相違点(2)について、
まず、引用文献26は、石炭ガス化高温高圧フライアッシュ濾過システムに用いられるパルスバルブ用金属ベローズに関し、引用文献27は、マイクロ反応器に用いられる端面シーリング流体コネクタに関し、引用文献28及び引用文献29は、テキサコ重油ガス化炉の応用と改善に関し、前記引用文献に関わる技術分野は、本特許が属する乾式粉炭ガス化分野と明らかに異なっている。
次に、引用文献26における接続環は、隣接する波形セグメントを接続するためのものであり、引用文献27における「補強及び/又は保護環」構造50は、ガラス、セラミックスなどの材料で加工された流体モジュールが、金属で加工されたコネクタのスリーブによって押し潰されないことを確保するためのものであり、引用文献28及び引用文献29における接続環は、燃焼室と急冷室とを接続するためのものであり、それらによる作用も、本特許における保護環による「スラグ排出口と下降管との間の移行を実現させ、下降管をさらに保護すると共に、後続のメンテナンスをしやすくした」との作用と明らかに異なっている。
最後に、無効審判請求人からは、乾式粉炭ガス化炉に保護環を設けることが本分野の公知常識に属していることを証明する何らの証拠も提供されておらず、且つ本特許の保護環の設置方式や作用も、無効審判請求人が挙げた日常生活における「ひざ当て、ネックウォーマー」などの構造や作用とは大きく異なり、当業者はそれに基づいても本特許のような保護環を設けることに想到することができない。してみると、引用文献26、27、28、29及び公知常識の何れにおいても、本特許のように設置された保護環についての技術示唆が与えられていない。
上述を纏めると、無効審判請求人が引用文献1を最も近い従来技術として請求項1が進歩性を有しないと主張している無効理由は成立しない。
【無効審査決定の結論】
全ての無効理由が成立せず、全ての特許権の有効を維持する。
なお、いずれの当事者も行政訴訟を提起しなかった。
【事件からの教示及び典型的意味】
¨進歩性の判断においては、ある技術的特徴が「開示」されているか否かのみに着目してはならず、従来技術の「簡単な寄せ集め」をしてもならない。技術分野、技術課題、技術手段、技術効果等の多方面を合わせて、「組み合わせの技術示唆」が与えられているか否かを客観的に分析しなければならない。