事件No.3
中国特許登録番号:ZL200880112278.0
PCT公開番号:WO2009/035233A1
日本ファミリー出願:特表2010-539778等
出願日:2008年9月4日
登録日:2014年5月7日
特許名称:上りリンク信号の伝送方法
特許権者:光学細胞技術有限責任公司
(出願人/元特許権者:エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド)
無効審判請求人:ファーウェイ技術有限公司(Huawei)
無効審判請求日:2018年9月30日
無効審査決定番号:第39900号(特許権の有効を維持する)
無効審査決定日:2019年4月5日
【要点】
・本無効審判は、SEP(標準必須特許)の侵害訴訟に関連するものである。
・無効審判請求人(Huawei)や、出願人/元特許権者(LGエレクトロニクス)は、何れも通信分野の大手企業である。
・無効審判で議論された焦点は、優先権の成立にある。
【関連背景】
対象特許は、LTE(Long Term Evolution)システムにおける上りリンク信号の伝送方法に関し、4G(第4世代移動通信システム)規格の重要特許である。
特許権者である「光学細胞技術有限責任公司」は、出願人/元特許権者である「LGエレクトロニクス」から多くの4G重要特許を獲得し、複数の通信大手企業に対し特許侵害訴訟を提起した。これに対し、通信大手「Huawei」は、本特許の無効審判を請求した。
【本特許の概要】
本特許は、以下の4つの優先権を主張している。
基礎出願1:US60/972,244(出願日:2007年9月13日)
基礎出願2:US60/987,427(出願日:2007年11月13日)
基礎出願3:US60/988,433(出願日:2007年11月16日)
基礎出願4:KR10-2008-0068634(出願日:2008年7月15日)
本特許の独立請求項1の概要:
1.ACK/NACK信号、ACK/NACK信号以外の制御信号及びデータ信号を含むアップリンク信号と、参照信号とを受信機に伝送する方法であって、
前記参照信号を、2次元リソース領域の予め決定されたタイムドメインユニットにマッピングし、前記2次元リソース領域は、複数のタイムドメインユニット及び複数の周波数ドメインユニットを備え、 前記タイムドメインユニットはSC-FDMAシンボルに対応し、前記周波数ドメインユニットは仮想副搬送波に対応し、
…
多重化した信号を順次に前記2次元リソース領域にマッピングし、…
(後略)。
【無効審判請求人の主な主張】
・本特許の請求項1(下線部)によれば、多重化した信号がマッピングされる2次元リソース領域において、参照信号が含まれている。しかし、基礎出願において記載されているマッピング方法は、アップリンクに伝送される情報系列を、参照信号が含まれていない行列にマッピングするものである。よって、請求項1は、基礎出願1~3の優先権を主張できない。
・本特許の請求項1、2、4は、引例8に対し新規性を有さない。
(引例8:3GPP TS 36.212 V8.3.0、公開日:2008年6月19日)
・本特許の請求項1~4は、引例1または引例8を主引例として進歩性を有さない。
(引例1:3GPP R1-073094、公開日:2007年6月20日)
【優先権及び新規性に関する議論】
・本特許の出願日、基礎出願の出願日、引例の公開日は、以下の通りである。
つまり、引例1は、公開日が本特許及び全ての基礎出願の出願日より早いので、新規性や進歩性の評価に用いることができる。
引例8は、公開日が基礎出願1~3の出願日より遅く、基礎出願4及び本特許の出願日より早いので、本特許の基礎出願1~3に対する優先権の主張が成立しない場合にのみ、新規性や進歩性の評価に用いることができる。
・特許権者は口頭審理において、基礎出願1に対する優先権の主張を放棄し、基礎出願2、3に対する優先権を主張した。
【合議体の認定】
・優先権について、基礎出願2の第4頁1~2段落と図3~5とを組み合わせると、基礎出願2の図3~5に示される2次元リソース領域においても、参照信号、及びアップリンク用の情報系列の行列が含まれていることが分かる。さらに、基礎出願2の第9頁1~2段落と図9とを組み合わせると、多重化した信号をその2次元リソース領域にマッピングすることも分かる。よって、本特許の請求項1は、基礎出願2の記載から直接的且つ疑いなく特定できるものであり、基礎出願2に対する優先権の主張が成立する。
・引例8は、公開日が基礎出願2~3の出願日より遅いので、新規性や進歩性の評価に用いることができない。
・本特許の請求項1及びその従属請求項は、引例1を主引例とする場合に進歩性を有する。
【案件からの教示及び典型的意味】
・SEP(標準必須特許)の侵害訴訟に関連する無効審判は、現在、中国で頻繁に行われている。
・当事者が中国の大手企業であっても、審理は公平に行われ、外国の当事者に有利な結果となる可能性が十分にある。
・無効審判段階では、引用文献が従来技術になるか否かの判断が、優先権の成立に影響される場合、当事者の意見及び証拠に基づいて、優先権の成立について審査を行う。
・優先権の成立を判断する際は、文字の記載に限らず、発明の全体を実質的に把握したうえで分析を行い、実質的に同一であるか否かを判断する。
【弊社の感想】
弊社は2年前に、本無効審判と類似する案件を担当したことがある。特許権者(日本大手企業)は、SEPを利用して中国の大手企業に対し侵害訴訟を行い、その後、中国の大手企業による無効審判請求を受けた。弊社は、特許権者の代理人として無効審判に参加し、最終的に、特許権は全て有効であるとの審決が得られた。
その無効審判においても、優先権の成立が議論の焦点となった。対象特許の請求項の文言が基礎出願に記載されていなくとも、「発明を全体的に理解すれば、基礎出願と同一である」と主張したことで、優先権の成立が合議体に認められた。