事件No.2
中国特許登録番号:ZL01807269.0
出願日:2001年2月15日
登録日:2007年8月1日
特許名称:ピロール置換2-インドリノン蛋白質キナーゼ阻害剤
特許権者:SUGEN ,INC、PHARMACIA & UPJOHN COMPANY LLC
無効審判請求人:CSPC OUYI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.
無効審判請求日:2019年4月29日
無効審査決定番号:第42407号(特許権の有効を維持する)
無効審査決定日:2019年11月21日
【無効審査決定の要点】
●従来技術に、一般式化合物及びその製造方法の一般的な記述が開示されており、且つ該一般式化合物の製造には複数の原料が反応する必要がある場合、「該従来技術にはそれぞれの原料に係るいくつかの具体的な反応物がさらに例示されているが、異なる原料の複数の例示された具体的な反応物からそれぞれ1つの具体的な反応原料を選び、さらに製造方法の一般的な記述によって1つの生成物である化合物を導出しただけであり、このような『導出された化合物』について、従来技術において定義されていないか、又、通常、このような「導出された化合物」が既に従来技術に具体的に開示されていると認めることはできない。
【事件の背景及び経緯の簡単な説明】
本特許は、適応症が多種の難解な癌である多標的点抗腫瘍薬とチロシンキナーゼ阻害剤用化合物又は組成物に関する。本特許の存続期間が満了に近づいたことから(存続期間満了日2021年2月15日)、後発医薬品メーカーは、ジェネリック医薬品の一番手上市の準備のために、先発医薬品への特許挑戦を開始した。
本特許の請求項1は以下の通りである。
【請求項1】
式(I):
[式中
R1は、水素原子、アルキル、および-C(O)NR8R9からなる群より選択され、
R2は、水素原子、ハロゲン基、アルキル、シアノ、および-S(O)2NR13R14からなる群より選択され、
R3は、水素原子、アルコキシ、-(CO)R15、アリール、ヘテロアリール、および-S(O)2NR13R14からなる群より選択され、
R4は、水素原子より選択され、
R5は、水素原子およびアルキルからなる群より選択され、
R6は-C(O)R10であり、
R7は、水素原子、アルキル、アリールからなる群より選択され、
R8およびR9は、独立して、水素原子、アルキルからなる群より選択され、
R10は-NR11(CH2)nR12であり、
R11は水素およびアルキルからなる群より選択され、
R12は-NR13R14、水酸基、-C(O)R15、アリール、ヘテロアリールであり、
……
の化合物またはその薬学的に許容しうる塩。
●無効審判請求人は、2019年4月29日に中国知識産権局に無効審判請求を提出し、本特許の請求項1~18を全部無効にするよう請求した。提出した主な無効理由は以下の通りである。
(1)証拠3又は証拠6に導出された化合物「ジメチルスニチニブ」を最も近い従来技術として、請求項1~2、4~5、10~18は証拠3又は証拠6に対して新規性及び/又は進歩性を有しない。
(2)証拠6の化合物8又は13を最も近い従来技術として、請求項1~18は、証拠6、又は証拠6と証拠3との組み合わせ、又は証拠6と証拠3と公知常識との組み合わせに対して進歩性を有しない。
(3)証拠3の化合物49又は54を最も近い従来技術として、請求項1~18は、証拠3、又は証拠3と公知常識との組み合わせ、又は証拠3及び証拠1と公知常識との組み合わせに対して進歩性を有しない。
(4)証拠1を最も近い従来技術とした場合、請求項1~18は、証拠1、又は証拠1と公知常識との組み合わせ、又は証拠1と証拠3及び/又は証拠6と公知常識との組み合わせに対して進歩性を有しない。
証拠1:WO98/50356A1、公開日:1998年11月12日
証拠3:WO99/61422A1、公開日:1999年12月2日
証拠6:証拠3の優先権出願US60/116106
特許権者は、2019年7月1日に特許請求の範囲の全文の補正差し替え頁を提出し、登録公告公報に対して、請求項1、4におけるR12の定義から「水酸基、-C(O)R15、アリール、ヘテロアリール」を削除し、R12が「-NR13R14」であることのみを残した。
●合議体の主な観点及び理由は以下の通りである。
(1)本特許の請求項1、4が保護請求しているのは化合物請求項であり、その化合物は、マーカッシュ構造の形で表されている。マーカッシュクレームにおける置換基のある選択肢を削除する補正方式は、無効審判手続における並列技術案の削除に属さず、審査基準における無効審判段階の補正方式に関する規定に適合しない。よって、特許権者が提出した補正書は受け入れられず、本決定が対象とする書類は登録公告公報である。
(2)証拠3又は証拠6により導出された化合物「ジメチルスニチニブ」を最も近い従来技術とした場合、「ジメチルスニチニブ」は証拠3の合成された41個の一般式2の原料及び3つの一般式3の原料から2つの具体的な原料化合物(即ち、5-ヒドロキシオキシンドールと5-ホルミル-2,4ジメチル-IH-ピロール-3-カルボン酸(2-ジメチルアミノエチル)アミド)を選択することにより導出した化合物であり、証拠3で実際に合成された化合物ではなく、且つ証拠3には、該化合物の化学名称、構成式及び/又は生物活性データ及び構成確認データも開示されていないので、証拠3は、実際には「ジメチルスニチニブ」を開示していない。同じ理由で、証拠6も、実際には化合物「ジメチルスニチニブ」を開示していない。
証拠3又は証拠6は化合物「ジメチルスニチニブ」を実際には開示していないので、該化合物により新規性及び/又は進歩性を否定した無効理由は成立しない。
(3)証拠6の化合物8又は13を最も近い従来技術とした場合、先ず、本特許の請求項1の化合物と証拠6の化合物13との相違点は、本特許のR6に対応する位置に連結される側鎖が異なり、本特許の側鎖が-C(O)N(R11)(CH2)nNR13R14であるのに対し、化合物13の側鎖が(CH2)3-N(CH3)2であることにある。本特許の請求項1が証拠6の化合物13に対して実際に解決する技術課題は、PDGFとVEGFという2つのキナーゼに対し体外細胞試験と体内試験のいずれにおいても調節活性を有することを示す化合物を提供することである。証拠6又は証拠3には、PDGFとVEGFという2つのキナーゼに対して細胞試験と体内試験のいずれにおいても調節活性を有することができるということに関する化合物が何ら言及されておらず、当業者には、前記技術課題の解決に対して証拠6の化合物13の構造を改良する動機付けがない。且つ、証拠3により、構造の改良について本特許とは逆の技術示唆が与えられている。よって、証拠6の化合物13を基に証拠6の他の部分又は証拠3を組み合わせたとしても、本特許の請求項1の化合物を得ることはできない。次に、証拠6の化合物8は化合物13と構造が類似しているので、上述の化合物13と同じ評価理由に基づき、証拠6の化合物8を最も近い従来技術として進歩性を否定した無効理由も成立しない。
(4)証拠3の化合物49又は54を最も近い従来技術とした場合、証拠3の化合物54は証拠6の化合物13と同じであり、証拠3の化合物49は証拠6の化合物8と構造が同じであるので、前記(3)に記載の理由と類似する理由に基づき、証拠3の化合物49又は54を最も近い従来技術として進歩性を否定した無効理由は成立しない。
(5)証拠1を最も近い従来技術とした場合、本特許の請求項1の化合物と証拠1に開示されている化合物との相違点は、本特許のR6に対応する位置に連結される側鎖が異なり、本特許の側鎖が-C(O)N(R11)(CH2)nNR13R14であるのに対し、証拠1の側鎖が-C(O)OCH2CH3であることにある。本特許に開示されている化合物46と証拠1の化合物との構造が類似し、R6の位置の側鎖は証拠1と全く同じであるが、本特許の化合物44、47と化合物46との相違点は、R6の位置の側鎖が異なることのみにあるので、化合物44、47と化合物46との比較は、本特許の請求項1が証拠1に対して行った技術改良によりもたらされた技術効果を既に反映している。得られたデータから分かるように、化合物44、47のIC50の値が化合物47より2桁低く、本特許のPDGFに対する生物化学試験活性は、証拠1より明らかに高いと証明した。また、証拠1は、VEGFの生物化学試験活性及び前記2つのキナーゼの細胞試験と体内試験の活性には言及していないので、本特許が証拠1に対して実際に解決する技術課題は、PDGFに対し改善された生物化学活性を有し、PDGFとVEGFの2つのキナーゼに対し細胞試験と体内試験のいずれにおいても調節活性を有する化合物を得ることである。証拠1により、化合物の構造を変えて前記技術課題を解決できる技術示唆は与えられていない。よって、証拠1を最も近い従来技術として進歩性を否定した無効理由は成立しない。
【無効審査決定の結論】
全ての無効理由が成立せず、特許権の有効を維持する。
なお、各当事者は、無効審査決定について行政訴訟を提起しなかった。
【事件からの教示及び典型的意味】
●マーカッシュクレームにおける置換基のある選択肢を削除する補正方式は、無効審判手続における並列技術案の削除に属さず、中国専利審査基準における無効審判段階の補正方式に関する規定に適合しない。
●化合物の新規性と進歩性について、中国専利審査基準には、特許出願は一種の化合物を保護請求しているが、当該化合物が一つの引用文献の中で既に言及されている場合は、新規性を具備していないと推定されると規定されている。本事件は、従来技術に前記化合物が「言及されている」か否かの判断、即ち、従来技術の開示内容に対する認定について、参考となる考え方の道筋を提供している。従来技術に前記化合物の化学名称及び/又は構成が定義又は説明されておらず、該化合物を真に製造したこと及び関連する構造、性能及び効果が測定されたことも明記されていないのであれば、通常、前記化合物が既に従来技術に具体的に開示又は言及されているとは認められない。
●本事件の審理では、無効審判段階における立証責任の割り当てについて、「主張した者が立証する」という規則と考え方が強調された。
無効審判段階において、特許権者が既に明細書において発明による技術効果を説明し、これを基に発明の実際に解決する技術課題を主張している場合に、無効審判請求人が前記技術効果を否定しようとするのであれば、相応の立証責任を負うべきである。