EN
ホーム
会社紹介
  • 会社概要
  • シニアパートナー
  • 受賞歴
  • オフィス
  • 弁理士・弁護士紹介
    取扱業務
    業務グループ
  • 機械部
  • 電気学1部
  • 電気学2部
  • 化学・生物技術部
  • 日本一部
  • 日本二部
  • ドイツ部
  • 法律部
  • 商標部
  • ニュース・文章
  • 業界ニュース
  • 事務所ニュース
  • 文章
  • 事例速報
  • アクセス
    ニュース・文章

    2019年度 特許復審無効十大事件-事件No.1


    近年、中国国家知識産権局は、審理した復審・無効事件から、毎年一定の典型的な意味を持つ事件を選んで十大事件として公表しており、典型的事件として模範を示し、専利審査の基準を説明することで、専利品質の向上及び技術革新の奨励に有益な作用をもたらしています。
    以下では、同業者の方々の参考に供するため、中国国家知識産権局が2020年4月26日に公表した「2019年度専利復審・無効十大事件」の主な情報及び要点などについて、簡単に説明を行います。疑問や更に知りたい事件情報等がありましたら、弊社までお気軽にご連絡ください。 


    事件No.1
    中国特許登録番号:ZL97196762.8
    出願日:1997年7月29日
    登録日:2003年12月31日
    特許名称:発光装置及び表示装置
    特許権者:日亜化学工業株式会社
    無効審判請求人:北京都城億光貿易有限公司、億光電子(中国)有限公司
    無効審判請求日:2016年7月27日
    無効審査決定番号:第33344号(特許権の有効を維持する)
    無効審査決定日:2017年9月8日


    【無効審査決定の要点】
    進歩性の判断は、当業者を判断の主体とし、従来技術に、改良して相応の技術案を取得し、相応の技術課題を解決して相応の技術効果を奏するような技術示唆が存在するか否か、を客観的に判断しなければならない。当業者は出願日(優先日)の前には本特許の技術案を知らないのであるから、本特許の技術案を自明に得ることができるか否かは、従来技術を改良する合理的な動機付けが当業者にあるか否か、及びどのように改良するかについての技術示唆が従来技術により与えられているか否か、により決められる。


    【事件の背景及び経緯の簡単な説明】
    本件の特許権者である日亜化学工業株式会社は、LED発光分野の重要な技術推進企業の1つである。本特許は白色LED分野の基礎的な特許の1つであり、本特許及びそのファミリーは、中国、アメリカ、ドイツにおいて、何れも無効紛争が発生しており、且つ各国/地域の審理結果も完全に同じではない。
    日亜化学工業株式会社が、本特許を巡って北京都城億光貿易有限公司、北京都城億光電子デバイスセールスセンター、億光電子(中国)有限公司を相手取り起こした、特許権侵害に関する2つの民事訴訟事件が、2016年3月7日に北京知識産権法院で立件された。
    それを受け、北京都城億光貿易有限公司及び億光電子(中国)有限公司は、2016年7月27日に、本特許に対して無効審判請求を提出し、本特許の請求項1~16を全部無効にするよう請求した。

    本特許の現在有効な請求項1は、
    「発光層が半導体である発光素子と、前記発光素子によって発光された光の一部を吸収して、吸収した光の波長と異なる波長を有する光を発光するフォトルミネセンス蛍光体とを備えた発光装置において、
    前記発光素子の発光層が窒化物系化合物半導体からなり、かつ前記フォトルミネセンス蛍光体が、Y、Laからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Gaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体を含み、
    前記発光素子の発光スペクトルの主ピークが400nmから530nmの範囲内にあり、かつ前記フォトルミネッセンス蛍光体の主発光波長が前記発光素子の主ピークより長いことを特徴とする発光装置」である。


    •無効審判請求の主な理由:
    請求項1は、引用文献1、引用文献2、引用文献3のうちの何れか1つと引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8のうちの何れか1つとの組合せに対して進歩性を有しない。或いは、請求項1は、引用文献1、引用文献2、引用文献3のうちの何れか1つと公知常識との組合せに対して進歩性を有しない。

    引用文献1:JP特開平5-152609A、公開日:1993年06月18日;
    引用文献2:JP特開平7-176794A、公開日:1995年07月14日;
    引用文献3:JP特開平8-7614A、公開日:1996年01月12日;
    引用文献4:CN86104700A、公開日:1987年01月14日;
    引用文献5:US4034257、公告日:1977年07月05日;
    引用文献6:US5118985A、公告日:1992年06月02日;
    引用文献7:US3699478A、公告日:1972年10月17日;
    引用文献8:A new phosphor for flying-spot cathode-ray tubes for color television: yellow- emitting Y3Al3O12:Ce3+、G. Blasse and A Dril et al. APPLIED PHYSICS LETTERS、第11巻第2期、公開日:1967年07月15日。


    •無効審判請求人の主な意見:
    (1)請求項1と引用文献1、引用文献2、引用文献3のうちの何れか1つとを比較すると、その相違点は、何れも、前記フォトルミネセンス蛍光体が、Y、Laからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Gaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体(YAG:Ce)を含むことにある。即ち、相違点は、上述のフォトルミネセンス蛍光体(YAG:Ce)を選択して、窒化物系化合物からなる青色LED(発光スペクトルの主ピークが400nmから530nmの範囲内にある)とを組み合わせて発光装置を構成することにある。上述の相違点に基づいて、請求項1が実際に解決する技術課題(A)は、混色により白色系の光が発光可能な発光ダイオードには、蛍光体の劣化によって色調がずれたり、あるいは蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下し、耐候性が悪い等の問題点があったということである。
    (2)引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8のうちの何れにも、このようなフォトルミネセンス蛍光材料(YAG:Ce)が開示されており、当業者は、それを引用文献1、引用文献2、引用文献3のうちの何れか1つに適用することにより、請求項1の技術案を得ることができる。或いは、このようなフォトルミネセンス材料(YAG:Ce)及びその性質は既に本分野で公知のものとなっており、当業者は、それを引用文献1、引用文献2、引用文献3のうちの何れか1つに適用することにより、請求項1の技術案を得ることができる。
    (3)蛍光体劣化の問題は引用文献2、引用文献3の何れにも明確に開示されており、引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8の何れにも、このようなセリウムで付活されたガーネット系蛍光体が様々な光源及び表示条件で稼働できるということが既に明確に記載されている。本特許の優先日前の1993年に、青色LED及び青色LEDからどのように白色光を発光するかは既に知られており、青色LEDの蛍光体の耐候性に関する要求をテストすることは、非常に容易に想到し得るものであるため、当業者には、セリウムで付活されたガーネット系蛍光体を用いて青色LEDと組み合わせることにより、性能が優れた発光装置を形成する動機付けがある。
    (4)セリウムで付活されたガーネット系蛍光体は公知の蛍光粉末材料であり、その耐候性は既に本分野で知られており、当業者は、発光装置において耐候性に優れた蛍光材料を用いる必要がある場合、創造性のある労働を必要とせずにこのような蛍光体を用いることを想到できる。
    (5)セリウムで付活されたガーネット系蛍光体が優れた耐候性を有することは、その固有の特性であり、この点は、先に行われた無効審判手続で既に確認されている。


    •合議体の主な意見及び理由:
    (1)本特許明細書の記載によれば、本特許の目的は、上記技術課題(A)を解決し、高輝度で、長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの少ない発光装置を提供することにある。本発明の発光素子は、太陽光に比較して約30倍~40倍に及ぶ強度を有する光にさらされ、高輝度のものを使用すれば使用する程、発光素子周辺に近接して配置される蛍光体に要求される耐光性は厳しくなる。
    (2)従来技術では、青色LEDを発光素子として用いると共に、異なる蛍光体を組み合わせて白色系発光を図るという技術案が既に存在しており、従来技術でも、チップ周辺が太陽光よりも強い放射強度の光線にさらされる場合、蛍光物質の劣化が問題になることが意識されている。しかし、これは、当業者が上記従来技術を基に、創造性のある労働を必要とせずに、青色LEDの発光環境において耐候性を有し劣化しにくい蛍光物質を容易に探し出し、より安定した発光を図ることが出来ることを意味しない。当業者が出願日(優先日)前に面していた従来技術によると、セリウムで付活されたガーネット系蛍光体を用いた引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8では、水銀ランプ、白熱ランプにおいても、陰極線或いはレーザー表示システムにおいても、それらの光強度は青色LEDの光強度よりも遥かに小さい。つまり、本特許における蛍光体の存在する青色LEDの発光環境と、これらの引用文献に示されている蛍光体の存在する環境とには、非常に大きな相違がある。そのため、引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8により、青色LEDの発光環境において、どのような蛍光体がより優れた耐候性を有し、劣化を防止できるかに関する示唆が与えられておらず、セリウムで付活されたガーネット系蛍光体と青色LEDとを組み合わせて発光が安定している発光装置を製造するような、当業者への明示的或いは暗示的な技術示唆も与えられていない。
    (3)セリウムで付活されたガーネット系蛍光体材料は、波長の短い光、例えば青色光により励起されて波長の長い光を発するという性質は、複数の従来技術に開示されているが、上述の各従来技術の何れにも、それを青色LEDと組み合わせることで発光が安定している発光装置を形成できるという技術示唆が与えられていない。且つ、上述の各引用文献中には、請求項1に限定されている蛍光体材料と青色LEDとを組み合わせた後に、相応の物理、化学及び光学的な安定性を有するか否かも明記も暗示もされておらず、当業者は、請求項1に限定されている蛍光体材料を引用文献1、引用文献2、引用文献3の技術案に適用する示唆を得ることができないと共に、その技術効果を予想することができない。
    (4)セリウムで付活されたガーネット系蛍光体は本特許の出願日(優先日)前に既に当業者に知られていたが、当業者は、それの青色LED発光環境での特性は分かっておらず、これらの特性は本分野の公知常識にも属さない。当業者は、青色LEDの発光環境において他の蛍光体よりも優れているか否かを判断できないため、青色LED発光環境に用いて、蛍光体が劣化しにくく、耐光性及び耐候性を有する発光装置を得る動機付けがない。
    (5)従って、各従来技術・引用文献によると、請求項1の技術案は非自明であり、発光装置を、高輝度で、長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの少ないものとするという技術効果を奏しており、突出した実質的な特徴と顕著な進歩を有し、特許法第22条第3項に規定する進歩性を有する。


    【無効審査決定の結論及び行政訴訟の一審判決】
    •無効審査決定の結論:全ての無効理由が成立せず、特許権の有効を維持する。
    •行政訴訟及びその判决:北京都城億光貿易有限公司、億光電子(中国)有限公司は、無効審査決定を対象として、北京知識産権法院に行政訴訟を提起した。北京知識産権法院は、7名からなる合議体を結成して審理を行い、2018年12月28日に、被提訴決定は事実認定が明瞭であり、法律適用が正確であり、結論に不当な点がないとして、原告の訴訟請求を棄却すると判決した。そして、いずれの当事者も上訴しなかったため、一審判決が発効した。


    【事件からの教示及び典型的意味】
    •本件の争点は、進歩性の判断において2種類の従来技術手段を組み合わせる動機付けがあるか否かということにあり、その中核は、「当業者のレベルの特定」及び「技術示唆の判断」にある。
    •進歩性の評価過程において、技術示唆の判断は一貫して争点になり易いポイントであり、主観的な断定が行われることがある。対象特許の技術案を目にした後に、従来技術からそれぞれ関連する技術的特徴を探し出して「組み合わせる」と、「後知恵」の誤りを犯しやすい。
    本件は、技術示唆が存在するか否かを判断する際には、技術の発展過程の影響を考慮し、技術の発展経緯を把握して、技術示唆が存在するか否かを当事者の目線から客観的に認定する必要があると説明しており、類似する事件の進歩性の判断に対して模範的な役割を果たしている。