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    逆転判決案件から見る専利復審・無効行政案件の上訴審理


    2019/11/26|文章

    苗征   盧佳

     

    専利出願拒絶査定不服審判(復審)と専利権無効審判は、専利行政案件の中で最も主要な二大案件である。この2種類の案件の第二審は、これまで北京市高級人民法院の管轄であったが、最近、全国人民代表大会常務委員会の会議において、専利技術類事件の上訴については、最高人民法院が知的財産権廷を設立し、統一して審理を行うことが決定された。最高人民法院はその後、司法解釈[1]により決定内容を詳細化し、その関連内容によれば、201911以降に下された復審・無効審判の判決と裁定への上訴は、最高人民法院知的財産権法廷での審理に統一される。

     

    今回の知財権技術類案件の上訴審理の仕組みの調整は、知財権案件の審判基準の統一と完備を推進し、専利権の有効性判断と侵害認定の二大訴訟手続きと、裁判基準とのシームレスな結合を実現するものである。同時に、法律の継続性及び機関の設置などの要素を考慮して、今回の調整の後、復審・無効事件の審理に対しても、これまでの二審の司法判例の実務を継続した上で、統一と完備が行われる。ここでは、これまでの復審・無効行政案件に対する北京高級人民法院による逆転判決の事例を整理した。その中から見いだせる審判における共通した考え方が、今後の最高人民法院知的財産権法廷での上訴事件の審理の過程で、引き継がれ発展していくものと確信する。

     

    一、直近2年における復審・無効の二審逆転判決の基本的状況

     

     筆者は、インターネット上に公開されている裁判日が2017年から現在までの、二審で逆転判決が出された専利行政案件、計45件を検索した[2]。全45件のうち、39件は専利権無効審判行政紛争に属し、圧倒的多数を占め、残りの6件は専利出願拒絶査定復審行政紛争で、占める割合が比較的少ない。これは、専利権授与・確定類の行政案件のうち、無効案件の割合が復審案件よりはるかに高いという趨勢に符合する[3]。また、無効案件は、第三者と専利権者との勝敗に係るため、より高い論争がもたらされるという一面も反映されている。

     

     裁判の結果から分析すると、全45件の裁判結果は2種類に分類でき、一つは、一審判決で復審委員会の行政決定が取り消され、二審判決で一審判決が取り消されたもので、計24件あり、もう1つは、一審判決で復審委員会の行政決定が維持され、二審判決で一審判決と復審委員会の行政決定がすべて取り消されたもので、計21件あり、両者の割合はほぼ同等であった。

     

     上記の検索された無効案件の判例のうち、二審の最終判決の結果が、専利権者側に有利であった割合は約56%、無効請求人側に有利であった割合は約44%であった。両者はほぼ同等であり、明らかな傾向性は見られなかった。更なる分析によると、審判結果で一審判決を取り消したが復審委員会の認定を維持した事件では、最終結果が専利権者に有利であった割合が、無効請求人に有利であった割合よりやや低かった。しかし、審判結果で一審判決と復審委員会の決定を同時に取り消した事件の中では、最終結果が専利権者に有利であった割合が、無効請求人に有利であった割合より高かった。この差は、二審手続きにおいては、二審裁判所が専利権者の最後の救済であるという役割を有効に保障しなければならないからであると考えられる。このような専利権者の最後の救済を保障するという精神は、例えば吉聯亜科学有限公司の専利権無効審判事件[4]において、証拠が無効手続きの中で交差使用できるか否かを認定した場面で具体的に表れている。二審裁判所は、無効手続きの中で、「専利権者の利益が損なわれるのを防ぐため、異なる無効審判請求における証拠を交差して使用することはできない。しかし、専利権者がその専利が有効であることを証明するために使用する証拠は、例外である。そうでなければ、専利が無効にされた場合、専利権者は救済を得ることができなくなるからである。」と認定している。中国の現行の司法審査体系と二審を最終審とする二審制を考慮すると、行政訴訟手続、特に二審手続は、専利権者の最後の救済の機会であるが、無効請求人にとっては、仮に無効手続きにおいて不足があったとしても新たに無効審判請求を提出することで補うことができる。よって、専利無効行政事件において、二審裁判所が専利権者の救済を合理的に保障することは、イノベーションに対する保護を実現することにも繋がるのである。

     

     関連案件の専利の類型から見ると、特許案件が最も多く、約6割を占め、その次は実用新案案件で、約3分の1を占め、意匠が最も少ない。これは、専利行政案件の中で、占有率が最も高いのが特許であり、次が実用新案で、意匠が最も少ない[5]ことを反映している。また、二審での逆転判決案件では、技術系の専利が特に主要な位置を占めていることも反映している。最高人民法院の知的財産権審判廷の設立後に、技術類事件の上訴審理が統一管轄された後には、技術類事件の司法裁判規則が更に明確化及び完備されるはずである。

     

    二、直近2年における復審・無効の二審逆転判決における審判ポイント

     

    逆転判決の理由は主に進歩性の認定に集中している

     

     個別案件の証拠採用問題により、手続きの空転を避けるなどの理由で一審判決が取り消される以外、大多数の事件で一審判決が取り消される理由は、いずれも専利の有効性に基づく実質的問題である。専利の有効性の実質的な問題の中でさらに分析すると、少数のケースで、『専利法』第33条の「新規事項の追加」、『専利法』第29条の「優先権」の問題、あるいは『専利法』第23条の意匠について「明らかな区別がある」か否かなどの問題が重点的に討論されているのを除き、他のケースにおける判決理由は、すべて、技術案に進歩性があるか否かを巡って論述が展開され、これに基づいて原審判決が取り消されている。してみると、無効・復審行政案件の上訴審理において、特に特許と実用新案について、進歩性は最も核心的な問題である。進歩性は「専利の三性」(新規性・進歩性・実用性)の中で最も重要な要件[6]であり、専利権の保護客体のイノベーションの高さを反映するものである。二審の逆転判決案件では、進歩性が高く重視され、発明創造を奨励するという専利法の立法趣旨を体現している。

     

     各当事者の立場から見ると、復審・無効行政案件の二審裁判に対応する過程においては、進歩性の問題を高度に重視すべきであり、係争専利が進歩性を備えているか否かについて十分に述べるべきである。同時に、過去の判例中の主要な争点と二審裁判所の審判における考え方を分析することによって、より良く応訴業務の重点を予測することができ、より良く合法的な利益を守り、合理的な訴求を実現することができるようになる。

     

     具体的には、進歩性の認定について、二審逆転判決案件においては主に次のような論争問題に関連している

     

    基本的に「三歩法(3ステップ法)」の適用を堅持する

     

    ほとんどの二審逆転判決事例では、進歩性の認定において「三歩法」が採用されている。個別の事例では、「三歩法」の基礎の上で、同時に補助的方法を採用しており、例えばエボニック・デグサ社の復審事件[7]では、「三歩法」によって進歩性を有さないという結論を出した後、更に補助的に、当業者の研究開発活動をシミュレートすることでも同様の結論が得られるとの論述が行われた。直近2年の復審・無効行政案件の二審逆転判決案件を見ると、二審裁判所は基本的に「三歩法」の適用を堅持し、「三歩法」を超えて進歩性を認定して原審判決を取り消したケースはなかった。また、個別の判例において、二審の裁判所は更に「三歩法」の厳格な適用を強調した。例えば、南京勝太の特許権無効審判行政訴訟[8]では、二審裁判所は、「三歩法」を適用して相違点を1つずつ分析しなければならないことを強調し、原審で「三歩法」に基づき審査をしなかった判断を正した。してみると、進歩性の判断方法について、上訴審理の過程における二審裁判所の基本的な考え方は、「三歩法」に従い、「三歩法」を越えて進歩性の有無について不当な判断をすることはできない、というものである。

     

    技術案と技術的特徴の比較の実質性に注目

     

     「三歩法」を適用した進歩性判断の基本過程は、まず最も近い従来技術を確定し、次に請求項の技術案と最も近い従来技術との間の技術的特徴を比較して、相違点と解決する技術課題を確定し、最後に自明であるか否かを判断する、というものである。

    第一ステップの最も近い従来技術の決定について、二審逆転判決案件では、最も近い従来技術の選択が誤りであるためにすぐさま原審判決を取り消すという事例は極めて少ない。これは主に「三歩法」に内在する論理的決定によるものであり、最も近い従来技術の選択が不当であることは、後続の技術案の比较或いは非自明性の判定に影響を与えるが、その選択は唯一ではない可能性があるため、それ自体は判決変更の重要な理由にならないことが多い。

    事実、二審における多くの案件の逆転判決は、往々にして「三歩法」の第二ステップと第三ステップの判断過程の中で関連する技術案の比較と技術的特徴が開示されているかどうかを判断する上で発生する。一般的に、特許の技術案或いは従来技術の開示内容は、復審委員会と一審裁判所の前置手続きでの審査で判断され、二審では論争が存在しないはずである。しかし、中国の二審手続きは依然として全面審査であるため、上訴請求の関連事実と適用法律に対してすべて審査が行われる。二審の逆転判決案件の判決理由を見ると、技術案と技術的特徴が開示されているか否かの再認定に関連しているものが依然として多いということに気が付く。

    例えば、莱克社の実用新案権無効事件[9]において、二審裁判所は、明細書に開示されている技術案全体を考慮して、当該実用新案権に保護される技術案を特定し、相応の技術的需要が引例にも同様に存在するか否かを判断した。また、株式会社野の復審行政訴訟[10]において、二審裁判所は、一部の技術的特徴の作用を十分に考慮し、係争特許と従来技術の技術案の操作方法の差異を比較し、かつ原審裁判所の技術案に対する理解の誤りに基づいて、相違点を再認定した。

    李珵誼特許権無効事件[11]においても、二審裁判所は、技術案を正確に理解し、全体的に考慮すべきであることを強調し、「請求項に対して孤立した解読を行うべきではなく、特許請求の範囲、明細書、図面などを組み合わせて、請求項の技術案に対して発明目的に符合する理解と認定を行うべきである」と強調した。同様に、タンザ社の特許権無効事件[12]でも、二審裁判所は、従来技術を全体的に考慮することを強調した。

     開示内容の判断についても、二審逆転判決案件には関連する論述が存在する。例えば、参天製薬株式会社、旭硝子株式会社特許権無効事件[13]では、二審裁判所は、更に、従来技術文書が相応のパラメータを測定したか否か、あるいはメカニズムや原因を掲示したか否かにかかわらず、それが客観的に技術手段を開示し、相応の技術効果をもたらしたことに影響を与えない、と認定した。してみると、二審では、従来技術の開示内容の認定に対し客観的要求があることが分かる。もちろん、二審裁判所は従来技術文書の開示の十分性も要求しており、例えば、想定だけを開示し、実質的な技術内容を提供していない場合には、当業者は過度の労働を費やさなければ当該特許の技術案を得ることができないと認定される[14]。

     前記事件の裁判の考え方の中から、技術案の比較と技術的特徴が開示されているか否かの認定に対して、二審裁判所は往々にして、技術案の実質性と全体性により注目し、同時に技術的特徴が技術案において発揮する機能、作用などの要素を総合的に考慮して、従来技術或いは公知常識に開示されているかどうかを判断していることが分かる。技術案と技術的特徴の比較においては、技術案と技術的特徴の実質の把握、および開示内容の客観的認定が強調されている。その他の専利案件と同じように、専利権の授与/確定の行政訴訟も往々にして単純な法律問題ではなく、技術課題に関連する[15]。特に二審において、焦点は法律的問題と技術課題との交錯である。技術案の実質及び開示内容に対する客観的認定を強調することは、技術課題の正確な認定の要求だけではなく、技術案の全体性に対する関心と同様に、『専利法』第22条3項に規定する進歩性の理解と適用に関連し、技術構想が進歩性判断に与える影響を強調している[16]。

     

    技術課題、技術効果と技術示唆について総合的且つ客観的判断を行う

     

     「三歩法」の判断過程においては、技術案と技術的特徴の比較以外に、技術課題に対して、技術示唆と技術効果の判断も多くの二審逆転判決案件の中で重点的に論じられている。

     技術課題の判断に関する論述について、例えば、北京金石佳業社の実用新案権無効事件[17]において、二審裁判所は、技術課題の認定について論じる際に「技術課題は発明或いは考案が実際に解決できる技術課題であり、専利出願書類あるいは専利文献の中で解決したいと主張している技術課題ではない」と強調した。また、王賀実用新案権無効事件[18]においても、二審裁判所は「主観的技術課題と客観的技術課題が一致しない場合、審査官或いは裁判官が認定した客観的技術課題に準ずるべきである」と強調した。このことから、二審裁判所は、技術課題を判定する際に客観性を重視していることが見て取れる。

     技術効果の判断の論述について、例えば、日烽社の特許権無効事件[19]において、二審裁判所は、技術効果の認定について、明細書に明記された内容に基づくことができるが、当業者の普通の視点でその効果の実行可能性に対して初歩的な判断を行うことで、技術効果の不実の認定がされて進歩性の判断に影響するのを避ける必要があると認定している。さらに、前述した参天製薬株式会社、旭硝子株式会社事件[20]において、二審裁判所は、当分野の一般技術者であれば知っている、経路が多い或いは影響要素が多いパラメータについて、これらのパラメータ結果だけによっては、特許の改善効果を証明することができないと認定した。してみると、二審裁判所は技術効果の認定においても、客観的な技術の実態から合理的な認定を行っていることが分かる。同時に、二審裁判所が多数の事例の中で技術効果の進歩性判断に対する重要な影響を強調していることにも注目すべきである。例えば、エリコン社の実用新案権無効事件[21]の中で、二審裁判所は、簡単で実行しやすい置換であるから進歩性がないと認定することはできず、簡単な置換で明らかな技術効果が得られるのであれば、その進歩性を証明することができる、と指摘した。してみると、二審裁判所は、技術効果の認定過程において客観性を重視するだけでなく、その技術効果に対する重視自体にも二審裁判における比較的客観的な判定基準が現れている。

     技術示唆の判断についての論述について、例えば、前述した北京金石佳社事件[22]では、客観的に引例に技術的特徴が開示され、相応の技術効果を実現することができ、この技術示唆を組み合わせることで係争特許の技術案を得ることができ、創造性のある労働を必要としない、と認定されている。また、前述のエボニック・デグサ社の事件〔23〕でも、二審は客観的な技術示唆に基づいて、当業者には適切に引例の技術案を調整して、当該特許の技術案を得る動機付けがあることを強調した。

     前記審判は、技術課題の判定、技術効果の認定、技術示唆の有無の判断過程において、二審裁判所が技術案の全体性を十分に考慮し、技術案の中に相応の技術需要が存在するかどうかを分析し、同時に客観性、つまり引例が、客観的に相応の技術内容を開示しているか否か、技術課題を解決して技術効果を実現する技術示唆を提供しているか否かを重視していることを体現している。

     

    当業者が備える知識レベルと能力を正確に把握する

     

     「三歩法」の判断過程においては、当該分野の公知常識と慣用手段、及び当業者が備える知識レベルと能力の認定も、多くの判決において重要な争点となっている。

     擬制の主体である「当業者」の認識レベルと知識能力の認定には多くの要素が関連し、どのように総合的に測るのかについては、すでに法律規範を超えて裁判官の考量[24]を要求されることは不可避であり、各方面で論争を引き起こしやすい。二審逆転判決案件における公知常識あるいは慣用手段に属するか否かの認定も、往々にして審判理由の肝要な点であり、これについても二審判決の中に多くの関連する論述がある。

     例えば、コロンビア社実用新案権無効事件[25]において、二審裁判所は、原審裁判所が、関連する技術的特徴が当分野の公知常識または常用技術手段であることを示す証拠がないと認定したこと、つまり、引例により相応の技術的示唆が与えられていないと認定したことについて、進歩性は当業者の視点に立って判断しなければならないことが十分に考慮されていない、と指摘している。さらに、シャープの復審案件[26]の判決理由の中で、二審裁判所は、公知常識は通常、教科書や技術辞書などのツール書に記載の内容を提供することで証明できるが、当業者の知識レベルと能力を十分に考慮したうえで、十分に説明することでも認定することができる、と指摘した。事実、公知常識と常用技術手段の証明については、教科書や辞書等で証明することに限定されず[27]、二審裁判所は、上記訴訟の審理の中でも、十分な説明によって証明することを排除していない。同時に注目すべきは、二審裁判所は、多くの事件の中で、公知常識であることを証明する証拠がないことに基づいて、該当する特徴の非自明性を認めてもいるということである。機械などの、よく見られる明らかな公知常識技術手段に対しては、裁判所はそれが公知常識に属することについての自由心証を得やすいが、複雑な分野に対しては、技術的特徴が公知常識に属することを十分な証拠を提供して証明することが要求される必要がある。そうでなければ、技術案の非自明性が簡単に否定されてしまい、発明創造に対して合理的な保護を与えることができなくなる。

     特に、公知常識や慣用技術手段に属するか否かを判断する際には、技術的特徴自体が公知常識や慣用技術手段に属するか否かを考慮するだけでなく、技術的特徴が特定の技術分野や技術案に応用されることが自明であるか否かも判断することが多い。例えば、李莉特許権無効事件[28]において、二審裁判所は、混合緩衝空間の機能作用は当分野の公知常識であるが、本件特許では「触媒冷却器下流」に「触媒混合緩衝空間」が設けられており、この特定の設置は公知常識に属さない、と認定している。

     

    請求項を合理的に解釈する

     また、請求項の解釈は、「三歩法」の判断の中の明確なステップには属していないが、これも、進歩性を判断する基礎として、多くの二審逆転判決案件の肝心な点になっている。専利にとって、その保護客体は、請求項の言語によって限定されており、言語表現自体の限定が、請求項解釈の重要性と必要性を決定している[29]。復審・無効行政訴訟案件も例外ではなく、二審において、請求項に対する解釈は請求項の客体を定義する肝心な点である。通常、先の行政手続きと一審裁判所の司法審査を経た後は、基本的に明確である用語が争点になるということはない。しかし、請求項の用語の字面以外の意味の確定に対しては、論争が発生しやすく、二審の逆転判決案件における認定の肝心な要素となる。

     二審裁判所は、多くの事例の中で、請求項解釈の規則を強調しており、例えば、陳華清特許無効事件[30]において、二審判決は、請求項解釈の「文脈主義」の規則、すなわち、明細書と図面を組み合わせて請求項を解釈すべきであり、明細書の中で特別に限定された意味があり、しかもこの限定された意味が明確であって、当業者がその限定された意味を理解することができる場合、たとえ請求項中の用語が前記技術分野において通常の意味を有していたとしても、明細書において限定された意味を採用して用語の意味を確定するべきである、と指摘している。

     更に、アリババ社の特許無効事件[31]において、二審裁判所は、請求項の中で自ら創った技術用語について、明細書において明確に定義していない場合、特許文献中の関連記載を組み合わせて、当業者の通常の理解に基づいて意味を確定すべきであり、用語を明細書の中のある具体的な実施の形態に体現される内容にまで簡単に限縮することはできない、と指摘した。

     請求項解釈の過程においても、二審裁判所の専利権者に対する合理的救済及び合法的な保護が体現されている。例えば、二審裁判所は、ある事件[32]を通して、専利権者の授権の過程で発生した信頼利益に対する保護に基づき、権利確認手続では、「請求項の公示価値と社会における利益を害することのない状況下で、請求項に対応して発明目的に適合する解釈原則を作成する」と認定した。

     請求項解釈の問題に関する二審の逆転判決事件では、各事件の具体的な解釈の認定ルールは個々の特徴を有している。しかし、これらの事例は、全体的に、二審裁判所が請求項の解釈を行う際に、文字にとらわれず、発明の主題と全体の技術案を重視し、専利文献中の限定を尊重し、文脈の意味を組み合わせて、発明の主題を逸脱しないことを基準に解釈を行っていることを示している。請求項に対する解釈は、上訴事件の審理過程における、裁判所の技術案に対する全体把握、および技術案の実質的内容に対する関心も現している。

     

     以上のように、北京市高級人民法院の二審逆転判決の復審・無効行政案件の整理を通じて、我々は、復審・無効事件の上訴の審理過程において、進歩性問題が判決変更理由の主流であることを発見した。「三歩法」の適用を堅持することは二審における進歩性判断の基礎であり、各争点は、技術案と技術的特徴の比較、技術効果、技術課題と技術示唆の判定、当業者の知識レベルおよび能力の確定、請求項の解釈に現れている。二審裁判所の紛争問題に対する認定は、二審裁判所が、特許が進歩性を備えているか否かを認定する過程で、技術案の実質的な内容と全体性を重視し、進歩性判断の規則・方法の正確性と客観性に注目していることを反映している。

    当事者として、復審・無効の上訴事件を処理する際には、係争特許の進歩性問題を重視し、係争特許及び従来技術と公知常識の証拠を徹底的に分析し、技術案、技術構想、実現した技術効果、解決した技術課題及び相応の技術示唆を正確に把握し、請求項の技術的特徴の解釈と当分野の公知常識、慣用の技術手段に対し十分な論述と立証を行うべきである。有利な裁判結果を獲得して自身の合法的権益を有効に実現するために、応訴の準備過程においては、技術課題を軽視してはならないだけでなく、技術課題を明確にした上で、法律規則も整理しなければならず、特に技術課題と法律問題との交錯に注目しなければならない。

     

     

    注釈

    [1]『最高人民法院による知的財産権法廷に関する若干の問題に関する規定』。2019年1月1日より施行。

    [2]以上のネット公開事例の検索結果は、2018年12月30日に更新した。

    [3]知産宝が公表した『2017北京知識産権法院司法保護データ分析報告』における、2017年の専利行政事件の事由分布状況によると、無効審判案件は517件で、68.5%を占めた。

    [4](2017)京行終1806号判決。

    [5]知財宝が公布した『2017年北京知識産権法院司法保護データ分析報告』における、2017年の専利行政事件のタイプ分布状況によると、最も多いのが特許(387件)であり、その後に実用新案(200件)、意匠(137件)、その他13件が続いた。

    [6]尹新天著:『专利法详解(缩编版)』、知識産権出版社2012年版、195ページ。

    [7](2017)京行終222号判決。

    [8](2018)京行終741号判決。

    [9](2016)京行終4365日判決。

    [10](2017)京行終408号判決。

    [11](2017)京行終878号判決。

    [12](2017)京行終5509号判決。

    [13](2018)京行終2194判決。

    [14](2017年)京行終2544号判決。

    [15]姚志堅など、「专利效力认定二元分立构造的调整,『人民司法(应用)』2017年第4期。

    [16]李越など、『问题导向下的我国创造性评判标准研究

    http://www.sipo-reexam.gov.cn/alzx/scrdzjt/21053.htm アクセス時間2018年12月30日。

    [17]京行終2334号判決。

    [18](2015)高行(知)終字第3065号判決。

    [19](2018)京行終742号判決。

    [20]同13.

    [21](2016)京行終2859号判決。

    [22]同17.

    [23]同7.

    [24]崔国ビン著:『专利法原理与案例(第2版)』、北京大学出版社 2016年版、第259頁。

    [25](2017)京行終602号判決。

    [26](18)京行最終4723号判決。

    [27]張冬梅、「专利授权确权案件中公知常识的证明〉、『知识产权2012年第10期。

    [28](2017年)京行最終1711号判決。

    [29]Osenga, Kristen Jakobsen. "A Penguin's Defense of the Doctrine of Equivalents: Applying Cognitive Linguistics to Patent Law." Social Science Electronic Publishing (2016).

    [30](2017年)京行最終1082号判決。

    [31](2016)京行終1619号判決。

    [32]同21.